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千葉地方裁判所八日市場支部 昭和58年(わ)37号 判決 1984年6月27日

主文

被告人を懲役一〇月に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は法定の除外事由がないのに、千葉県知事の許可を受けないで

第一、昭和五五年九月一七日ころ、千葉県八日市場市ニ字長谷二七二番地の二、他三筆、地目田、地積合計三七九四平方メートルを土砂で埋立て、擁壁工事を施して造成しもつて農地を農地以外のものに転用し

第二、同五六年一一月四日ころから昭和五七年六月一五日ころまでの間、千葉県匝瑳郡野栄町川辺字芋子八三六番地の一外八筆、地目田、地積合計一八九九平方メートルを土砂で盛土し、コンクリート擁壁、排水溝、ブロック塀で区画を施して宅地造成し、もつて農地を農地以外のものに転用し

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(量刑の事情)

被告人の判示第一の犯行は、同地上に自宅建築の目的でこれを行つたものであるが、被告人はその以前の昭和五三年ころ、同地上に建売分譲住宅を建築する計画の下に、同地が農業振興地域の整備に関する法律(以下農振法という)に基づく農用地の指定を受けた農地であつたところから、八日市場市農業委員会等にその指定解除の認可申請および農地法に基づく宅地への転用許可申請をしたところ、何れもこれを却下されたことがあつて、自宅建築のためにはこれらの諸手続や建築基準法上の手続等を経由しなければならないことを充分知悉しており、また数社の同族会社を経営していて多額の収入もあり、他にも多数の不動産その他の多大の資産を有していて、右土地上に早急に自宅を建築しなければならないような差し迫つた理由もなかつたのに、右各手続を一切行うことなくその埋立工事に着手し、その後この事実を知つた八日市場市農業委員会、八日市場市都市開発課、千葉県八日市場土木事務所等の関係機関から再三に亘り口頭や書面による工事中止の指導、勧告を受け、更に千葉県知事からも工事中止、原状回復の勧告を受けたにもかかわらず、これらを一切無視して右工事を強行したものであり、その間一時工事を中止し、また関係機関から転用範囲を縮小し、その余の部分を農地に復元すれば許可となる旨の好意的な指導を受けたこともあつたのに、結局これに従うこともなく前記工事を再開続行したものである。

加えて、これが何ら解決に至つていない段階で、本件第二の犯行に着手したもので、同地も農振法に基づく農用地の指定を受けた優良農地であつて宅地への転用許可の見込が全くない土地であるのに何ら法律上の手続をとることなく宅地分譲のため埋立工事を開始し、これについてもその後野栄町長、同町農地委員会、千葉県知事らの関係機関から再三工事の中止、原状回復等の指導、勧告、命令等を受けながら全くこれを無視して右工事を強行したものである。

その上、第一については本件公判継続中においても尚前記工事および建物建築工事を平然と続行し、ついには鉄筋コンクリート造二階建居宅と広大な庭園をほぼ完成させ、家族ともども入居して現に生活をしているばかりか、本件公判廷においてもこれを原状に回復する意思のないことを述べているものであり、また第二についてはその後一応の原状回復工事を行つたものの、その内容は単に設置した構築物と埋立てた土砂の一部を撤去、搬出したにとどまり、未だ原状の田にまでは回復されておらず、不充分なままである。

被告人は第一について、八日市場市長らが工事の続行を認める発言をしたから、これを再開続行した旨強弁するのであるが、本件証拠上そのような事実は認め難い上、そのような適正な手続に則らない非合法的、反社会的なことが許されるべきものでもないのであるから、これを口実に原状回復の措置をとろうとしない被告人の態度は誠に遺憾である。

以上のような点に鑑みると、被告人の本件犯行は、関係機関等が容易に強硬な是正措置等を行わないことを良いことに相次いで埋立工事を強行したものであつて、そうした動機、態様、結果の何れの点においても極めて悪質かつ狡猾であり、改俊の情も全く見られないのであり、従つてその刑事責任は極めて重大であるといわなければならない。

被告人は本件の事実関係については一応これを認めており、またこれまで特記すべき前歴も見当らないなど有利な事情も認められるものの、このような点を考慮したとしても、なおその刑事責任は極めて重大であつて、検察官の求刑は妥当であり、これを減刑もしくはその刑の執行を猶予するのを相当と認むべき格別の情状はないから、主文掲記の刑に処するのが相当である。

よつて主文のとおり判決する。

(村田長生)

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